絆の構造 依存と自立の心理学

絆の構造 依存と自立の心理学 (講談社現代新書)

 

東京堂書店で少しだけ見て回る時間があって、たまたま新書新刊で目についた本でした。

著者の高橋惠子さんという方は、人間関係の生涯発達が研究対象のようです。

<目次>
序章  人間関係の神話
第一章 日本の家族の現在
第二章 母子関係は特別か
第三章 仲間・友人・恋人との関係
第四章 定年からの人間関係
第五章 人間関係の仕組み
第六章 人と人をつなぐ


これ、新書の帯が大きくて、

 変わる「標準家族」
 崩壊する「男性稼ぎ主型」社会

 日本の家族と社会の関係が大きく変化している。
 私たち日本人が直面する生活困難は、家族で助け合うだけで解決できるのか?
 仲間・友人・恋人との新たなつながりを求めて、自分らしい「愛情のネットワーク」をつくる一歩を踏み出すために-。

 

 

が3/4の大きさでくるんであります。


この本に数回出てくる「素朴信念」ということば。

日本人には「これが理想的な人間関係だ」と信じ込まされてきたことが多く、いつのまにか素朴信念となってその呪縛から自由になれないことが多い

として、たとえば"「家族との絆が根本で、重要だ」「母親には母性愛があるはずだ」「子どもが幼いうちは母の手で育てるべきだ」「問題行動を引き起こす人は家庭に問題があったからだ」「老親の介護は子どもに責任がある」「家庭の問題は家庭内で処理するべきだ」"...
いくらでも出てきそうですね。

そして、そんな「~べき」に心苦しむがゆえに他者に相談できず末路として命を奪う・奪われる事件も起こってしまう。

たとえば三歳児神話、母性神話、など「神」がついた思想は、どこからきたのかいつの間に自分の考え方の参照になっていたりするのでしょう。
これからの教育の中でも(政治的な方針に左右されやすい)家族観、道徳観を子どもたちの世代も少なからず影響を受けていくのだと思うと、時代がつくる価値観は個人自身の考えの下敷きになりやすいのだと思います。


もうひとつ、「愛情のネットワーク」について。
五章では、調査を通して人間関係を測定した結果を類型化して考察されています。子どもに対して行われた縦断研究は読んでみて興味深いものでした。
傾向として、女児と男児で成長につれて、女子の方が多焦点(いろいろな種類の人たちを挙げて誰が中心であるかが決め難い)タイプの割合が増えるけれども、男児では父母の一方または両親を挙げる子どもが7割を占めるなど。

愛情のネットワークの内容を作るのはそれぞれの個人であり、必要に応じて変化もしてゆく。母親の意味も、家族の意味も、友だちの意味も、それぞれの人が選んで決めているということ。誰かに決められているものではないということ。


章立ては、身近な他者との関係から、最後は見知らぬ人とのつながりについて触れています。見知らぬ他者を理解するというのは、見知らぬ他者やそれに関わる社会の仕組みについての正確な知識がなければ、難しいということ。

これまで、社会科学は親しい関係ができれば、身近ではない人々ともつながれると考えてきた。しかし実際には身近な人々と知らない人々の間の溝は大きい。 

 

「想像力をもち、他者への思いやりをもちましょう」、ということは、実はとても難しいのではないかと思います。想像力、というのは自己の経験や知識を基に主体的に考え、具体的に描けなければそのあとのアクションも導けないと思うもので、子育てひとつとっても、私自身も実際この手でしてみて分かることは、その立場にない時期と比べ物にならないほどです。

相手の想像力頼みでいる以上に、言葉で表し、伝える、ということがもっと求められる時代になるのではないかと思います。