「月経のはなし 歴史・行動・メカニズム」
..男にはあの産みの苦しみが耐えられないわよ、と リリー・ポウルは冷笑した。血を見ただけで気絶してしまうわ。 男たちは女の血から自分たちを切り離してしまったのよ、と スザンナは言った。でも、それを知らないことは大きな損失よ! だって、つまるところ、彼らは女の血でできているんですもの!
(Alice Walker 「父の輝くほほえみの光で」)
たまたま図書館で見つけて、出版年も今年というのもあり、借りてみました。 著者の武谷雄二さんは、東京大学医学部産婦人科教授であり、この本を執筆するにあたって、あとがきでこのように記していました。
これまで産婦人科医として女性の病気を治すことのお手伝いをしながら、常にトータルに女性の健康や生活環境の向上に腐心してきた。そのような経験を通じ、月経と人類の歴史を考察し、月経に関する誤解、迷信などにより女性が社会的に不利益を被ることがないようにメッセージを発することは、わたしのミッションであると自覚した。
この本では、医学的な「月経」という面ももちろんのこと、長い歴史の中で偏見や誤解があったこと、宗教的な関係、月経とそれを語源とするような言葉についてなども含めた興味深い本でした。 月経に関するホルモンや月経周期を発見した研究者のことや、オギノ式で有名な荻野久作氏についても触れられていたりと、月経に関する総論だと思います。 月経をメインテーマにした本、というのはなかなか耳にしないですし、あったとしても、「婦人科系病気」や「妊娠・出産」についてだったりするのではないでしょうか。
[目次]
序章 女性の体では、毎月、なにが起こっているのか?
第1章 月経と魔女狩り―偏見の歴史のなかで
第2章 月経で読み解く女性の行動
第3章 月経と犯罪・自殺―周期や量の異常
第4章 月経がなくなると―病のつらさ
終章 女と男を分かつ「豊かな血」
補遺 月経と生殖医療
少なくとも女性は生殖に関連するさまざまな不快な心身の変化を経験していることになる。ある意味では、人類が全体として抱えなくてはならない生殖に関わる苦痛を女性が引き受けているともいえる。
毎月のように痛みや不快感があったり、思春期の微妙な気持ちや、生理がこなくて妊娠ではと不安になったりなど、女性の身体と心にとっても密接に関わる現象。 妊娠すれば、ダイナミックにホルモンのバランスも変化し、胎盤が作られ、胎児へ栄養と酸素を供給し、出産後は母乳は血液から生成されて身体の外へ出ていく…産後もホルモンバランスがダイナミックに変化する。 過度なダイエットやストレスにさらされると、身体は生殖機能よりも生命の維持を優先し、それで生理が止まってしまうこともあったりする。 現代の女性は、妊娠出産回数も過去の時代に比べて減り、一生、毎月月経があった場合は約450回(周期)という回数なのだそうです。でも、閉経の時期は「過去一世紀の間にほとんど変化していない」、寿命が延びたからって、排卵も月経も延びるわけではないのですね。 特に異性にとって、相手の女性の不調・痛みを"理解すること"って一体どういうことなのでしょうね。 避妊や不妊治療、妊娠・出産への理解も、同じ体験をすることはできないけれども、相手の身体を存在を尊重するってどういうことなのでしょう。 なんだかそんなこともぼんやり考えつつ、よくぞこうやって月経についてまとめられたなと感心しました。